
許容できる獲得単価を、社内で1つ決めていませんか。
ある事業者の実データで商品別に計算したところ、同じ会社の中で46倍の差がありました。同じチーム、同じ時期です。
1つの数字で運用していると、片方の商品では出しすぎ、もう片方では出し足りない、という状態になります。
結論を先に書きます
許容できる獲得単価は、こう出します。
許容単価 = 期間内の粗利 × (1 − 原価率) × 成立率
これは仮の式です。 御社の数字を入れてください。
問題は原価率です。多くの企業では、これを全社で1つの数字にしています。実データを見ると、商品ごとに大きく違います。
実データで見た原価率
ある健康食品ECの受注データには、注文1件ごとに仕入原価が記録されていました。商品別に集計するとこうなります。
| 商品 | 平均単価 | 原価 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 主力商品(12袋セット) | 25,237円 | 920円 | 3.6% |
| 別ブランド(12袋セット) | 25,122円 | 907円 | 3.6% |
| 初回価格の定期商品 | 915円 | 392円 | 42.8% |
3.6%と42.8%です。
これを初回の粗利ベースで許容単価に直すと、25,537円と550円になります。46倍です。
なぜこうなるのか
初回価格を下げる商品があるからです。
初回980円のような設定にすると、その1件だけを見れば原価率が跳ね上がります。 継続してもらうことを前提にした価格設定なので、初回だけで判断してはいけません。
つまり、この46倍という数字自体は、そのまま使えません。
正しくは、継続を含めた期間の粗利で計算します。初回980円の商品でも、3か月続けば売上は変わります。
ここで言いたいのは「46倍」という数字ではなく、「商品によって前提がまるで違う」ということです。
平均で計算すると、どちらも間違えます
全社で1つの原価率を使うと、こうなります。
- 原価率の低い商品 → 許容単価を低く見積もる → 出せるはずの広告を止める
- 原価率の高い商品 → 許容単価を高く見積もる → 赤字の広告を回し続ける
両方向に間違えます。 そして、間違いが打ち消し合って全体では黒字に見えることがあります。この状態がいちばん厄介です。
原価は、たいてい受注データの中にあります
「商品別の原価を出すのが大変」という声をよく聞きます。確認してみてください。
ある事業者では、受注データに原価の列がありました。注文1件ごとに、その注文の仕入原価が入っています。 セット数が変われば金額も変わる形でした。
1袋あたりに割ると、どの商品も同じ単価でした。つまり「1袋いくら」という単価が、セット数に応じて計算されて記録されていたわけです。
まず受注データの列を全部見てください。 使っていない列に入っていることがあります。
その原価に、何が含まれているかを確認してください
ここが大事なところです。上の3.6%は、仕入だけの数字でした。
実際にかかる費用を足すと、こうなります。
| 項目 | 1件あたり | 単価に対する比率 |
|---|---|---|
| 仕入 | 1,152円 | 4.16% |
| 物流 | 538円 | 1.94% |
| 資材 | 41円 | 0.15% |
| 決済手数料(推定3%) | 830円 | 3.00% |
| 合計 | 2,561円 | 9.26% |
仕入だけなら4.16%、諸経費を足すと9.26%です。
この事業者は、それまで「原価率10%」という決め打ちで計算していました。結果として、ほぼ正しい数字でした。
ただし中身が分かっていませんでした。 仕入が4%で、残り5%が諸経費という内訳が見えていなかったのです。
中身が分かると、商品ごと・配送方法ごとに正確に出せるようになります。
送料が入っていないことがあります
同じ事業者の売上集計を見ると、顧客が払う送料と代引手数料が全件ゼロでした。
事業者が負担しているということです。 販売価格からは見えません。
物流の実費を確認したところ、1件あたり538円でした。単価25,000円の商品なら1.94%です。原価率の計算に入れないと、その分だけ甘くなります。
成立率も忘れないでください
式の最後にある成立率です。
注文が入っても、全部が売上になるわけではありません。決済方法によって、成立しない割合が変わります。
ある事業者の実測では、後払いの決済方法で注文が入ったのに入金されない割合が、他の決済方法の18倍でした。そして受注全体の48.7%が後払いでした。
つまり、決済方法の構成が変われば、成立率も変わります。 全社で1つの成立率を使うと、ここでもずれます。
上限額も出しておいてください
許容単価とは別に、「1件も出ないまま、いくらまで使ってよいか」を決めておくと便利です。
上限額 = 許容単価 × 3.0
(1件も出ない確率が5%を切る水準。−ln(0.05) ≒ 3.0)
これも仮の式です。
この上限を超えて1件も出ていない広告は、統計的に「悪い」と言い切れます。判定を待つ必要がありません。
許容単価が24,000円なら、上限は72,000円です。72,000円使って1件も出ていなければ、止めてよい。 そう決めておけば、迷いません。
よくある質問
原価率を商品ごとに分けるのは、どのくらい手間ですか
受注データに原価が入っていれば、集計するだけです。入っていない場合は、商品マスタから引く必要があります。 どちらにしても、一度作れば以降は自動で出せます。
継続を含めた粗利は、どう計算しますか
獲得した月ごとに顧客をまとめて、一定期間後の累計粗利を見ます。このとき、まだ期間が経っていない分を混ぜないでください。
たとえば90日の粗利を見るなら、獲得から90日経っていない顧客は除きます。 混ぜると、新しい顧客の分だけ低く出ます。
期間は何日で見るべきですか
商材によります。定期購入なら、配送2〜3サイクル分が1つの目安です。日数ではなく、事業の周期で決めるほうが実務に合います。
許容単価を超えたら、すぐ止めるべきですか
いいえ。平均が超えているだけかもしれません。 まず広告ごとに分けて、どれが超えているかを見てください。
そして件数が少ない広告は、単価が跳ねます。 1件しか出ていない広告の単価は、その1件が出るかどうかで倍以上動きます。
社内でどう合意すればいいですか
まず原価率を商品別に出して、並べて見せてください。 数字が10倍違えば、1つの数字で運用する説得力は無くなります。
この記事で扱わなかったこと
- 媒体の数字と受注のズレ →媒体のCVと受注のズレ
- 予算を増やしたときの単価の変化 →予算を増やすとCPAはどうなるか
★ 断定していないこと
私は、御社で46倍の差が出ると断定していません。 商品構成によります。
私は、46倍という数字をそのまま使ってよいとは言っていません。 初回価格の商品を初回の粗利だけで見た値です。継続を含めれば別の数字になります。
私は、決済手数料3%を実測していません。 推定値です。実際の料率は契約によって違います。
私は、物流費538円が他社でも同じだと確認していません。 1拠点の請求書から算出した値です。同じ事業者でも、拠点によって変わります。
私は、後払いの18倍という数字を他の事業者で確認していません。 決済代行会社の審査基準にも左右されます。
私は、上限額の式(許容単価×3.0)が唯一の基準だとは言っていません。 1件も出ない確率を5%とした場合の値です。何%を許容するかは、事業判断です。
相談先
許容単価を全社で1つ決めていて、商品別に分けるべきか迷っている。そうした段階でご相談ください。
弊社は単品リピート通販・D2C向けに、ECシステム、CRM、運営代行、新規顧客獲得、物流までを扱っています。物流の実費まで含めた原価の設計もその一部です。
まず、受注データに原価が入っているかを確認するところから始めます。
出典・注記
- 本文中の実測値(原価率3.6%と42.8%、仕入1,152円・物流538円・資材41円、後払いの落ち18倍、後払い比率48.7%)は、国内の健康食品EC1社における2026年6月〜8月の実測です。事業者名・商品名は伏せています
- 決済手数料3%は推定値です。実測ではありません
- 送料と代引手数料が事業者負担である点は、同社の売上集計(2026年5月〜8月・4,308件)で確認しました
- 上限額の式は、1件も発生しない確率が5%を切る水準として −ln(0.05) から導いたものです