
広告の管理画面には「コンバージョン14件」と出ている。受注システムを開くと「7件」しかない。同じ広告、同じ期間です。
これはよくあることです。ある健康食品ECの実測では、媒体が数えた数は受注システムの2倍でした。
問題は「どちらが正しいか」ではありません。このズレが広告ごとにバラバラだと、止める順番を間違えます。
結論を先に書きます
判断に使うのは、受注システムの件数です。媒体の数字は、媒体が自分で数えたものだからです。
ただし「媒体の数字は嘘だ」という話ではありません。数え方が違うだけです。 そして、その違いは媒体ごと、広告ごとに変わります。
やるべきことは3つです。
- 両方の数字を並べて、ズレの倍率を出す
- その倍率が広告ごとにバラバラかどうかを見る
- バラバラなら、媒体の数字での順位づけをやめる
なぜズレるのか
理由は主に4つあります。
1. 計測の窓が違う
媒体は「クリックから30日以内」「表示から1日以内」といった窓でコンバージョンを数えます。窓の長さは媒体ごとに違い、設定でも変わります。受注システムは、注文が入った日で数えます。同じ購入でも、集計される日が変わります。
2. 重複して数えている
1人が複数の広告に触れた場合、それぞれの媒体が「自分の成果」として数えることがあります。媒体Aと媒体Bの両方に1件ずつ計上され、実際の受注は1件です。媒体の合計は、必ず実際より多くなります。
3. Cookie規制の影響
ブラウザ側の制限で、媒体側の計測が届かない場合があります。この場合は逆に、媒体の数字が実際より少なくなります。
4. 「コンバージョン」の定義が違う
媒体側で「購入」を計測していても、それが決済完了なのか、注文確定なのか、フォーム送信なのかは設定次第です。受注システム側の「成立」とは、そもそも別のものを数えている可能性があります。
ズレの倍率が一定なら、順位は変わりません
ここが大事なところです。
すべての広告で媒体の数字が一律2倍なら、順位は変わりません。 媒体の管理画面でCPAの安い順に並べても、実際の順位と同じになります。この場合、ズレは無視できます。
問題は、倍率が広告ごとに違うときです。
ある健康食品ECの実測では、キャンペーンごとに1.1倍から1.9倍まで幅がありました。この状態で媒体のCPAを信じると、実際は高い広告を「安い」と判断します。
広告を止める判断も、予算を寄せる判断も、順位で決めます。順位が入れ替わっていれば、判断そのものが逆になります。
倍率を出す手順
難しい計算は要りません。
① 媒体の管理画面から、広告ごとの「消化額」と「コンバージョン数」を出す
② 受注システムから、同じ期間・同じ広告の「受注件数」を出す
③ 媒体CV ÷ 受注件数 = ズレの倍率
④ 広告ごとに並べて、倍率のばらつきを見る
②で必要なのは、受注データに広告を識別する値が残っていることです。多くの受注システムには、広告用のコードを発行して受注に記録する仕組みがあります。ここが繋がっていないと、この計算はできません。
繋げ方については顧客IDの紐づけで説明しています。
期間と工数の目安
初回のズレ確認だけなら、受注データと広告データを手作業で突き合わせても出せます。 広告が数十本なら半日程度です。
継続的に見るなら、両方を1か所に集める作業が要ります。データソース3〜10個の統合で、3〜6か月というのが国内の相場です。
ただし最初の1歩は軽くできます。主要な広告5本だけ、直近1か月だけで構いません。 そこでズレが出なければ、この話は御社には関係ありません。
ズレが分かったあと、何をするか
倍率を出すこと自体が目的ではありません。次の3つに使います。
① 止める順番を決め直す
媒体のCPAではなく、受注ベースのCPAで並べ直します。順位が入れ替わっていれば、そこが今までの判断の誤差です。
② 媒体に正しい成果を返す
多くの媒体には、事業者側から成果データを送り返す仕組みがあります。媒体は自分が数えたコンバージョンで配信を最適化しているので、そこに実際の成立を返せば、最適化の向き先が変わります。
これは、ズレを直すのではなく、ズレたまま学習している媒体を正すという意味です。
③ 既存顧客を除外する
新規獲得の広告が、すでに買った人に当たっていることがあります。受注データと広告が繋がっていれば、除外リストを作れます。
遷移先まで見ると、もう1段階あります
媒体のクリック数と、実際にページへ到達した人数も一致しません。
ある健康食品ECの実測では、同じ商品・同じ時期でも、媒体によって到達率が11.5%と0.49%でした。23倍の差です。
これは別々の日、別々のキャンペーンで測って、同じ結果になりました。クリックの安さだけで媒体を選ぶと、ここで負けます。
クリック単価が20分の1でも、到達率が23分の1なら、1件あたりのコストは変わりません。
よくある質問
広告の管理画面のCVは信じてはいけないのですか
配信の最適化には使われているので、無意味ではありません。ただし予算配分の判断には、受注システムの数字を使ってください。 媒体は自社の成果を数えており、他媒体との重複も見えていません。
どちらが多くなるのが普通ですか
一般には媒体側が多くなります。重複計上とビュースルーの計上があるためです。ただしCookie規制の影響が強い環境では、逆に少なくなることもあります。どちらに振れるかは環境次第なので、実際に測ってください。
ズレは何%まで許容していいですか
基準はありません。大事なのは「大きさ」ではなく「広告ごとにバラついているか」です。 一律なら順位は変わらないので実害はありません。バラついていれば、5%でも判断は狂います。
受注データに広告のコードが残っていない場合はどうしますか
まず、受注システムに広告コードを発行して記録する機能があるかを確認してください。多くのカートシステムにはあります。無い場合は、遷移先URLをパラメータで分ける方法があります。ただし、それを受注まで持ち回る設計が必要です。
媒体が複数ある場合、どう配分すればいいですか
この記事の範囲では答えられません。複数媒体への配分は、アトリビューションという別の論点になります。まずは媒体ごとに「自社の受注ベースのCPA」を出すところからです。 そこで大きな差が出れば、配分の議論より先にやることが見つかります。
社内のどの部署が主管になりますか
広告部門だけでは完結しません。受注データは基幹側にあり、広告データは広告部門にあります。両方に触れる立場の人が要ります。 情報システム部門か、経営直下の分析担当を置いている企業が多いようです。
この記事で扱わなかったこと
- 受注データと広告を繋ぐ具体的な方法 →顧客IDの紐づけ
- 出荷や返品まで含めた利益の計算 →出荷データを広告まで遡る
- 差が本物かどうかの判定 →A/Bテストのばらつき
- 予算を増やしたときの単価の変化 →予算を増やすとCPAはどうなるか
- どの動画から売れたかを引く方法 →クリエイティブ別の成果
- 決済手段が広告の評価に効く理由 →決済手段で結果が変わる
- 到達したあとの離脱 →記事LPで99.89%が消える
- クリックそのものの質 →クリックの半分が人でない可能性
★ 断定していないこと
私は、御社でズレが出ると断定していません。 ここに書いた倍率は、ある健康食品ECの実測値です。商材、媒体の構成、計測の設定によって変わります。まず御社の数字で測ってください。
私は、媒体の計測が間違っていると言っていません。 数え方が違うだけです。どちらが「正しい」かは、何を判断したいかで決まります。
私は、23倍の到達率の差が他社でも起きると確認していません。 同一事業者内で2回測って再現しましたが、他の商材では確かめていません。
私は、ここで挙げた4つの原因が、ズレの全てだと確認していません。 実務で見つかった主なものを挙げています。
相談先
受注データと広告データを繋ぐところで止まっている場合は、ご相談ください。
弊社は単品リピート通販・D2C向けに、ECシステム、CRM、運営代行、新規顧客獲得、物流までを扱っています。データ基盤の設計もその一部です。
まず現状のデータで何が出せるかを確認するところから始めます。
出典・注記
- コンバージョン乖離の原因分類は、広告効果測定分野で一般に知られている論点を整理したものです
- 本文中の実測値(媒体CVと受注の2倍差、キャンペーン別1.1〜1.9倍、到達率11.5%と0.49%)は、いずれも国内の健康食品EC1社における2026年8月の実測です。事業者名・商品名・媒体名は伏せています
- 「データソース3〜10個の統合で3〜6か月」は、国内のCDP導入費用に関する公開情報に基づく一般的な目安です