
2026年8月24日、消費者庁の「デジタル取引・特定商取引法等検討会」で中間取りまとめ(案)が示されました。そこには、解約手続を不当に遅延させる行為や、契約手続に比べて合理的な理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為を、違法行為として規律の対象とすべきだと書かれています。
Webで申し込めるのに解約は電話だけ、という設計が名指しされたわけではありません。ただ、その形が想定されていることは読めば分かります。
この記事では、何が示されたのか、何がまだ決まっていないのか、そして事業者がいま手を付けるべきことは何かを整理します。規制の話は不確かな伝聞が広がりやすいので、公開資料に書いてあることと、書いていないことを分けて書きます。
何が起きたのか
消費者庁は2026年1月22日に「デジタル取引・特定商取引法等検討会」の第1回を開きました。以後8回の会合を重ね、2026年8月24日の第8回で中間取りまとめ(案)が資料として提示されています。
日本経済新聞は同月、「サブスクの解約妨害を禁止、差し止め請求可能に 消費者庁が法改正へ」と報じました。この報道で初めて知った事業者も多いはずです。
ここで最初に押さえておくべきことがあります。この文書は「案」です。 中間取りまとめ(案)の日付欄は「令和8年〇月〇日」のまま空欄になっており、正式な取りまとめとして確定した段階ではありません。そして、法案をいつ国会に提出するかについても、記載がありません。文書にあるのは「必要な制度整備の実現を早期に図るべきである」という一文だけです。
つまり、いま分かっているのは方向性であって、条文でも施行日でもありません。「来年から違法になる」と書かれた記事を見かけたら、その根拠を確認してください。
規律の対象として挙がっている6つのこと
中間取りまとめ(案)は幅広い論点を扱っていますが、単品リピート通販・サブスクに直接関わる部分は、おおむね次の6つに整理できます。以下、引用は同案の記述からです。
1. 解約手続の妨害
「解約手続を不当に遅延させる行為や、契約手続に比して合理的理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為」を、違法行為として規律対象とすべきとされています。
注目すべきは「契約手続に比して」という比較の視点です。解約が面倒かどうかを絶対値で判定するのではなく、申込みの手続と比べてどうか、という見方が入っています。この基準に立つと、申込みが3クリックで完了するのに解約は電話のみ、という設計は説明が難しくなります。
2. 最終確認画面の表示
「インターネット取引における最終確認画面における支払総額の表示、取引条件の分離表示の禁止等といった表示方法の義務付け」が挙げられています。
最終確認画面の表示義務は、2022年6月施行の改正特商法ですでにルール化されています。今回の案は、その上に「支払総額」と「分離表示の禁止」を重ねる方向です。分離表示の禁止とは、定期購入であることと回数条件が画面の離れた場所に書かれている、といった形を封じる趣旨と読めます。
3. 誤認を招く表示・UI
支払金額(違約金等を含む)、分量、契約期間等について、「虚偽・不明瞭な表示・UIについては、誤認を招く表示として規律」するとされています。
さらに「口コミ、利用状況、在庫情報、タイムセール等」で内容が虚偽である表示・UIも、同じく誤認を招く表示として規律の対象に挙がっています。実在しない残り在庫、動いていないカウントダウン、作られたレビュー。この3つは名指しに近い形で書かれています。
4. 攻撃的な表示
「操作の反復又は威迫的な文言等を用いて、消費者に迷惑を覚えさせ、又は不安を生じさせるような仕方」を、攻撃的な表示として規律するとされています。
解約フローで「本当によろしいですか」を繰り返す設計、「解約すると損をします」といった文言。これらが該当しうる領域です。海外ではconfirmshamingやnaggingと呼ばれてきた手法が、日本の条文の検討に入ってきたと見るのが自然です。
5. 電子書面の交付
「契約内容を記載した電子書面等を、注文完了後遅滞なく、電子メール等により消費者に交付することを義務付けるべき」とされています。
注文完了メールを送っていれば足りるのか、記載事項に何が求められるのかは、条文と下位法令が出るまで分かりません。ただ、注文完了メールの中身を点検しておく理由にはなります。
6. 返品特約の不当な濫用
販売業者が返品特約のみを理由として法定返品権を一律に拒否する行為を、新たに行政処分の対象として規制すべきとされています。あわせて、クーリング・オフ後の履行拒否や不当な遅延について、「不当な遅延に当たる日数の基準を示す等」の対応も挙がっています。
「ダークパターン」という言葉が入ったこと
中間取りまとめ(案)は、消費者の意思決定に係る選択や判断を歪める表示・UIを「ダークパターン」として問題視しています。脚注ではOECDの定義を引き、「消費者を誘導し、欺き、強要し又は操って……消費者の最善の利益とはならない選択を消費者に行わせるもの」としています。
実務にとって重要なのは、その次の記述です。検討会は「違法なパターン(ブラックリスト)や適法なパターンを示す等の方法により明確化すべき」としています。
これは事業者にとって悪い話ではありません。曖昧な規範だけを置かれると、どこまでが許されるのかが分からず、過剰に萎縮するか、逆に何も変えないかのどちらかになります。禁止される類型が列挙されるなら、点検ができます。
一方で、リストが出るまでは判断がつかない領域が残ります。ボタンの色の差、初期選択の位置、ステップの数。これらがどこから違法になるのかは、いまの案からは読み取れません。
差止請求の対象になることの意味
中間取りまとめ(案)は、インターネット上の不当な勧誘等について「適格消費者団体による差止請求の対象とすることを検討すべき」としています。理由として、「多数の消費者に反復して用いられる可能性があり……早期に差止めを行う必要性が高い」ことが挙げられています。
行政処分と差止請求は、事業者から見たときの性質が違います。
行政処分は、消費者庁や都道府県が調査を経て行います。件数は限られ、時間もかかります。差止請求は、適格消費者団体が裁判所に対して行います。担い手が増え、動き出す速さが変わります。
つまり、規制の「厳しさ」が変わるだけでなく、「誰が、どれくらいの頻度で指摘してくるか」が変わります。 実務上のインパクトは、罰則の水準よりこちらのほうが大きいかもしれません。
なお、中間取りまとめ(案)には、諸外国の規制水準との平仄も考慮した法定刑の引上げ等の方策についても、指摘事項として記載があります。
もう一つの検討会が動いています
ここで混同されやすい点を整理します。動いている検討会は1つではありません。
| デジタル取引・特定商取引法等検討会 | 消費者契約法検討会 | |
|---|---|---|
| 対象の法律 | 特定商取引法など | 消費者契約法 |
| 進捗 | 2026年8月24日の第8回で中間取りまとめ(案)を提示 | 2026年8月31日に第8回。今秋に中間取りまとめ案を公表する方針と報じられている |
| 主な論点 | 解約手続の妨害、最終確認画面、誤認を招く表示・UI、差止請求 | 解約妨害の禁止、分かりやすくスムーズな解約方法の提供、契約更新時や重要事項変更時の事前通知義務 |
両者は連動して整備される見通しと報じられていますが、別の法律であり、別の会議体です。「サブスクの解約妨害が禁止される」という報道は、どちらの話をしているかで射程が変わります。自社への影響を判断するときは、出典を確認してください。
消費者契約法側については、事業者側と意見が対立している論点もあると報じられています。契約更新前の通知義務のように、実装コストが直接発生する論点が含まれるためと考えられます。
なぜいま動いているのか
背景には相談件数があります。
国民生活センターのPIO-NETによれば、「通信販売での定期購入」に関する相談は、2023年度が80,315件、2024年度が89,401件、2025年度が93,065件です(2026年5月31日現在)。3年連続で増えています。
2026年8月5日に公表された2025年度の集計では、消費生活相談の総数は1,006,377件で、100万件を超えました。販売購入形態別では通信販売が382,721件で全体の38.0%を占め、最多です。販売方法・手口別で見ると「定期購入」は98,455件で第2位でした。
※ 93,065件と98,455件は集計の切り口が異なります。前者は「通信販売での定期購入」、後者は販売方法・手口別の「定期購入」です。引用するときは、どちらかを明示してください。
中間取りまとめ(案)自身も、2022年の改正特商法の施行後も「定期購入に関する消費生活相談件数は高水準で推移」していると指摘し、改正後の相談内容として「『定期縛りなし』、『いつでも解約可能』等の表示により、解約条件等について誤認する事例」を挙げています。
読み取れることは1つです。2022年の改正では足りなかった、と当局が判断している。 だから上乗せの検討が進んでいます。
いま事業者がやるべきこと
条文が出ていない段階でできることは限られます。ただ、条文を待たなくても始められることが3つあります。
1. 解約導線を数えて、申込み導線と比べる
いちばん確実なのはこれです。中間取りまとめ(案)の基準が「契約手続に比して」である以上、比較できる形にしておく必要があります。
申込みのステップ数、入力項目数、受付時間、受付手段。同じ4項目を解約側で数え、並べます。差が大きい項目が、説明を求められる可能性のある箇所です。
具体的な確認項目はWebで契約できて、Webで解約できないサイトの点検表にまとめました。20分ほどで一通り見られる形にしてあります。
2. 最終確認画面と注文完了メールを点検する
最終確認画面は現行法ですでに義務があります。まずそこが満たせているかを確認し、そのうえで支払総額の表示と、取引条件が離れた場所に分かれていないかを見ます。
注文完了メールについては、電子書面の交付義務が入る可能性を踏まえて、記載内容を確認しておきます。何が求められるかは条文次第なので、いま作り込む必要はありません。現状を把握しておく、という段階です。
3. 「解約させない」から「解約したくならない」へ、打ち手の置き場所を移す
これがいちばん時間のかかる作業です。
解約を難しくすることで維持されていた継続率は、規制が入れば失われます。その分をどこで取り戻すかを、いまから考えておく必要があります。手を打てる場所は、解約フローの外にあります。初回到着後のフォロー、配送間隔や数量の変更、非自発的解約(決済エラー)の回収、獲得段階での期待値の調整。
打ち手の全体像は定期購入の解約率を下げる7つの打ち手と、やってはいけない1つに整理しました。
4. 非自発的解約を、解約率から切り分ける
規制の話とは直接関係しませんが、いま手を付ける価値のある作業なので挙げておきます。
解約には、顧客が意思をもって手続きしたものと、決済エラーで結果的に止まったものがあります。カードの有効期限切れ、限度額超過、残高不足。この2つを合算して解約率を出している事業者は少なくありません。
合算すると、打ち手を間違えます。決済エラーで止まった顧客は、商品に不満があるわけではないからです。ここは引き止めではなく、通知と再決済の導線の問題です。そして規制が入っても、この領域の打ち手は影響を受けません。
まず分けて数える。それだけで、解約率の内訳の見え方が変わることがあります。
よくある誤解
報道の後で聞かれることの多い3点について、現時点で言えることを書きます。
「電話での解約受付が禁止される」 — そうは書かれていません。問題とされているのは、契約手続に比べて解約手続が過度に複雑であること、および不当に遅延させることです。電話窓口を残すこと自体が否定されているわけではありません。論点は、Webで申し込めるのにWebで解約できない、という非対称にあります。
「引き止めの提案が一切できなくなる」 — 中間取りまとめ(案)が挙げているのは、操作の反復や威迫的な文言によって消費者に迷惑を覚えさせ、不安を生じさせる仕方です。配送間隔の変更や数量の変更といった代替案を示すこと自体が対象とされているとは読めません。ただし、それを何画面にもわたって繰り返せば、手続を過度に複雑にする側に近づきます。境界は条文と下位法令を待つ必要があります。
「大手だけの話だろう」 — 適格消費者団体による差止請求の対象拡大が検討されている点から見ると、規模による線引きは想定しにくいと考えられます。行政処分は件数に限りがありますが、差止請求はそうではありません。
急がなくてよいこと
逆に、いま急ぐ必要がないと考えられることも書いておきます。
ボタンの色やレイアウトの微調整。 どこから違法になるのかが、いまの案からは読み取れません。ブラックリストが示されてから対応するほうが、手戻りが少なくて済みます。
大規模なシステム改修。 条文も下位法令も出ていません。いま作り込むと、要件が確定したときに作り直しになります。
法務レビューの前倒し。 案の段階で顧問弁護士に判断を求めても、「確定していないので判断できない」という答えになりがちです。いまやるべきは、現状を棚卸しして、確定したときにすぐ動ける状態にしておくことです。
この記事で断定していないこと
いくつか、はっきりさせておきます。
私は法律の専門家ではありません。 この記事は公開されている検討会資料と報道を読んで整理したものです。自社の設計が適法かどうかの判断は、顧問弁護士または法務にご確認ください。
中間取りまとめは「案」の段階です。 記載された方向性がそのまま条文になる保証はありません。検討会の議論で変わる可能性も、立法過程で変わる可能性もあります。
法案の提出時期は分かりません。 中間取りまとめ(案)に記載がなく、私も別の情報源を持っていません。「いつから」を書いている記事を見たら、根拠を確かめてください。
この記事に書いた引用は、中間取りまとめ(案)の記述からの抜粋です。 文脈を含めて確認する必要がある場合は、消費者庁のサイトで原文にあたってください。
テーマ別の詳しい記事
この記事は全体像です。それぞれの実務は、以下に分けて書きました。
解約を減らす側
- 定期購入の解約率を下げる7つの打ち手と、やってはいけない1つ — 規制の対象になりうる打ち手を除いたうえで、何が残るか
- 解約は予測できるのか。予兆に出る行動と、検知したあとにやること — 予測モデルの精度より、検知したあとの設計のほうが重要です
- CRMのメール・LINE・SMSは、どれが継続率に効いているのか — 開封率では比べられません
顧客が何を考えているかを知る側
- コールセンターの通話は、4つの部署で使えます — 録音がCS部門の中だけで消費されている場合の話
- 解約理由の選択式アンケートで分からないこと — 「経済的な理由」が最多になる仕組み
獲得と基盤の側
- 獲得単価が安い広告ほど、解約が早い場合があります — CPAだけで媒体を評価すると見えないこと
- CDPの導入費用は本当はいくらか。規模別の実際の相場 — 見積もりが10倍違う理由
規制への対応
- Webで契約できて、Webで解約できないサイトの点検表 — 自社の現状を確認するチェックリスト
相談先
規制の対応と、解約率の改善は、別々に進めるものではありません。どちらも「顧客がいつ、なぜ離れているか」が分かっていることが前提になります。
受注データ、広告データ、CRMの配信履歴、コールセンターの通話記録。これらが手元にあれば、現状で何が言えて、何が言えないかを整理できます。まず自社のデータで何が出せるかを確認するところから始められます。
出典・注記
法改正の検討状況
- 消費者庁「デジタル取引・特定商取引法等検討会」第1回(2026年1月22日)〜第8回(2026年8月24日)。第8回で「中間取りまとめ(案)」が資料として提示された。本記事の引用はすべて同案の記述による。同案は日付欄が空欄のままであり、確定した規制内容ではない。
- 消費者庁「消費者契約法検討会」。2026年8月31日に第8回を開催予定、今秋に中間取りまとめ案を公表する方針と報じられている(日本流通産業新聞 2026年8月27日号)。
- 日本経済新聞「サブスクの解約妨害を禁止、差し止め請求可能に 消費者庁が法改正へ」(2026年8月)。
- 現行の最終確認画面の表示義務は、2022年6月施行の改正特定商取引法によるもの。本記事で扱った中間取りまとめ(案)は、その上乗せの検討である。
相談件数
- 国民生活センター「通信販売での定期購入」PIO-NET登録データ。2023年度80,315件/2024年度89,401件/2025年度93,065件(2026年5月31日現在)。
- 国民生活センター「2025年度 全国の消費生活相談の状況−PIO-NETより−」(2026年8月5日公表)。相談総数1,006,377件、通信販売382,721件(38.0%)、販売方法・手口別「定期購入」98,455件。
本記事の限界
本記事は公開資料と報道の整理であり、法的助言ではありません。中間取りまとめは案の段階であり、法案の提出時期は公表資料に記載がありません。自社の表示・導線の適法性については、法務または顧問弁護士にご確認ください。